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札幌高等裁判所 昭和44年(行コ)2号 判決 1972年10月17日

控訴人

第一小型ハイヤー株式会社

右代表者

吉野常男

右訴訟代理人

岩沢誠

田村誠一

被控訴人

北海道地方労働委員会

右代表者

矢吹幸太郎

右指定代理人

二宮喜治外四名

参加人

第一ハイヤー労働組合

右代表者

及川静雄

右訴訟代理人

彦坂敏尚

佐藤文彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が参加人、控訴人間の昭和三七年道委不第一一号不当労働行為救済命令申立事件につき、昭和四一年七月一四日付でした原判決末尾添付の命令主文第一、第二項の命令を取り消す。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の、参加代理人は主文第一項同旨の各判決を求めた。

当事者双本の主張および証拠の関係は、次に付け加えるほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一、控訴代理人は、「仮りに、控訴人について支配介入の不当労働行為が成立するとしても、原判決添付の救済命令(以下、「本件命令」という。)主文第一項は、次の理由により違法である。(1)不当労働行為制度の趣旨は、不当労働行為を是正してこれがなかつたと同じ状態を作り出すことにあるのであるから、労働委員会としては、現にあつた不当労働行為を排除し、原状回復を命ずることを建前とし、本件命令主文第一項のような不作為命令は、再び同種または類似の不当労働行為が繰り返されるおそれが多分に存在し、あらかじめこれを抑止する必要があると認められるときに限つて許されるものである。しかし、控訴人が本件命令主文第一項の対象となつた不当労働行為を行なつたのは、昭和三七年六月五日の本件救済申立て以前のことであり、右事件の審理は同年一二月二六日に終了しているのであるから、その必要があれば被控訴人は遅滞なく救済命令を発すべきであるのに、その後三年六月にわたりこれを放置し、昭和四一年七月一四日になつて本件命令を発したのであり、その間控訴人は支配介入の不当労働行為を行なつておらず、約四年前の行為を理由に不作為命令を発せられる理由はなかつたものである。(2)さらに、本件事案について不作為命令が必要であつたとしても、本件命令主文第一項は、労働組合法第七条第三号の文言をそのまま引用したものであるところ、労働委員会の命令が確定すると、これに違反する使用者は過料または刑罰の制裁を受けるのであるから、本件命令主文第一項のように将来にわたつて具体的内容を規定しない命令を発することは、結局制裁の裏付けをもつた法規を設定するに等しく、労働委員会の権限を超えた違法のものである。」と主張した。

二、被控訴代理人は、「(1)被控訴人は、審査の全趣旨により、控訴人について不当労働行為があり、かつ将来同種の不当労働行為が繰り返されると判断して本件命令主文第一項を発したもので、不当労働行為の是正のための措置の決定について認められる被控訴人の裁量権の範囲を逸脱するものではない。(2)救済命令は、不当労働行為の存在しなかつた状態にできる限り回復させることを目的とする行政処分であり、そのために労働委員会は広い裁量権を有しているから、命令主文の文言が抽象的であることの故をもつて違法ということはできない。しかも、命令が抽象的であるかどうかは、主文だけからではなく、理由をあわせて救済命令全文の趣旨から判断すべきところ、被控訴人は、控訴人が西村らを中心とする参加人組合内の執行部に対する批判勢力と連携を保ちつつ、その活動を援助し、これを助長した事実を認定し、このことは労働組合法第七条第三号に該当するものであり、将来同種の行為が繰り返されるおそれがあると判断して、これを許さないために本件命令主文第一項を発したのであるから、命令としては、全体として具体性を有しているものというべきである。」と述べた。

三、<証拠関係―略>

理由

当裁判所も控訴人の本件請求を理由がないと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

一、<略>

二、控訴人は、本件命令主文第一項はその必要性を欠くと主張する。原本の存在およびその成立に争いのない甲第一号証によれば、被控訴人は、本件救済申立てに関する審問を昭和三七年一二月二六日に終結したことが認められ、本件命令が昭和四一年七月一四日付で発せられたことは当事者間に争いがない。しかし、前記のとおり、控訴人は、参加人組合内の執行部に対する批判勢力と連携を保ちつつ、その活動を援助し、助長したものであり、前認定の事実よりすれば、右審問終結当時控訴人において同種または類似の行為を繰り返すおそれがあつたものというべきところ、その後このようなおそれを解消させるような事情の変更があつたと認めるに足る証拠はないから、審問終結後本件命令発令までに相当の期間を経過したことの故をもつて、本件命令主文第一項はその必要性を欠くものとはいえない。

三、控訴人は、さらに本件命令主文第一項は、労働組合法第七号第三号の文言をそのまま引用したもので、抽象的であり、救済命令として違法であると主張する。前記のとおり、本件命令主文第一項は、「被申立会社(注、控訴人を指す。)は、申立組合(注、参加人組合を指す。)の運営に介入してはならない。」というものであり、労働組合法第七条第三号の規定の一部をそのまま記載したものである。しかし、救済命令は、具体的事件の救済のために発せられるものであるから、その命令主文だけを取り出して見れば、法文の繰り返しにすぎないように見えるものでも、理由をも含めて救済命令全部を見れば、その命令の趣旨を具体的なものとして理解することも可能な場合も少なくなく、本件命令主文第一項も、それが特に前記第七条第三号の文言の一部だけを取り出したものであることを考慮しながら、命令全部を読めば、控訴人に対し、理由中で認定されているように、参加人組合内の批判勢力と連携を保ち、その活動を援助するなどして、参加人組合の運営に介入してはならないという趣旨であることは明らかである。控訴人が主張するとおり、使用者が確定した救済命令に違反したときは、過料または刑罰の制裁があることよりすれば、救済命令の内容は、できるだけ具体的であることが望ましいが、他方事件の性質上それが技術的に困難であり、内容の限定がかえつて使用者の脱法手段を招くおそれがあるような場合には、不当労働行為制度の目的に照らし、その実効性を確保するために、ある程度抽象的な内容の救済命令を発することも直ちに違法ということはできない。使用者が組合内の批判勢力と連携し、これを援助する場合、使用者はさまざまな手段、方法を選ぶことができるから、使用者が先にした特定の手段、方法に限らず、さまざまの手段、方法を用いて組合内の批判勢力と連携し、これを援助をするおそれが多分にあると認められる場合には、先にあつた特定の手段、方法だけを禁止しても、不当労働行為制度の目的は殆んど達せられないことになる。したがつて、このようなおそれの存する限り、本件命令主文第一項のような命令も許されるものと解すべきところ、前認定の事実からすれば、控訴人には、このようなおそれが十分にあつたものというべきである。よつて、この点の控訴人の主張も採用できない。

そうすると、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(朝田孝 秋吉稔弘 町田顕)

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